さいきんは俳優としての活躍も目覚ましい吉川晃司さん。決然としたその演技だけでなく、スーツ姿がたまらなく美しい。若いころからスーツを着倒し、そして体幹を鍛えつづけてきた賜物か。そんな吉川さんがこのたび手に入れたのは愛してやまないというジョルジオ アルマーニのオーダースーツである。

▲何百着とスーツをつくってきた吉川さんをして「ジョルジオ アルマーニは完全無比なシルエットを描く」といわしめた。スーツ、ニット:メイド トゥ メジャー、ベルト:メイド トゥ オーダー(すべてジョルジオ アルマーニ)シューズ:スタイリスト私物
魅せる筋肉じゃなくて、体を支える筋肉を
吉川晃司は若白髪だった。
「イメージ商売ということもあって、若いころは(髪を)染めていたけれど、30半ばあたりからかな、もういいかなと思って。日本人は若づくりしたがるけれど、自分はシワだって頓着しない。だいたい、シワっていうのはレコードでいうところの溝であり、生きざまを奏でるものだと思っていて、むしろそこがいいんじゃないかと」
白髪もシワも前向きにとらえる吉川さんだが、だからといって「老い」をそのまま受け入れているわけではない。
「ランニングが10キロメートル、水泳が2キロメートル、そして筋トレやストレッチで小一時間。これがほぼ毎日つづけているルーティーンです。3年前からは弓もはじめました。すごい? でもさ、ビートを効かせた歌を歌う人間ならけっこうみなさんそうじゃないかな。とくに歳を重ねてくるとね、若いころよりそれに費やす時間は増えてゆくものだと思っています」
そういう努力の積み重ねが、吉川さんのアイコンでもあるシンバルキック(足を高くあげてシンバルを蹴るステージ・アクション)をいまも可能にしている。
「なにがいいたいかというと、顔などはあるがままが一番だけれど、ステージに立ちつづけようと思えば、肉体のほうはそれなりにケアしなければならないということ。とはいっても、外につける筋肉にはそれほど興味はないんです。見た目ではなくて内側の筋肉、つまり、インナーマッスルを集中して鍛えたいというのが理想で。いつまでもしなやかでいたいと思っています」
ところで、吉川さんの趣味のひとつは家庭菜園だという。20年以上つづけているというから筋金入りだ。イメージとのギャップにいささか戸惑いつつ、理由を尋ねる。
「ベランダで、八百屋さんに並ぶ野菜はひととおりつくったと思います。近ごろ気に入っているのはパッションフルーツ。旨いだけじゃなくて、グリーンカーテンにも最適です。ならばと今度はサツマイモのグリーンカーペットをつくってみた。それもいい出来栄えだったのですが、景観が悪くなるとお叱りを受けまして、中止。やりすぎは禁物ですね(笑)。自分が尊敬する職業は農家と漁師がツートップで、その次の次くらいがミュージシャンかな(笑)」
華やかな世界は「土」から遠い。遠すぎるかもしれない。そんな職業生活を埋め合わせるかのごとく、みずからの生活の場所に土を持ち込む。「外」よりも「内」に、目を向けるように。

▲吉川さんがいうように、そのショルダーラインはまさに富士山の裾野のように美しい。

▲「フィッターさんの手さばき、指の運びに惚れ惚れとしました」と吉川さん。
スーツが似合う男になりたかった
服装に対する考え方も、体幹がぶれない。吉川さんは最先端の服よりもスーツを好む。
「若いころの服はヨロイ。つまり、いろんなことに対してとんがるための道具でした。しかしいまは違う。ふだんはTシャツにジャージーですよ。けれど、いざというときにはスーツでのぞむことが求められる歳だと思う。スーツは他者に安心感を与え、そして着る人の背筋を伸ばしてくれる。おなじ食事を食べるにしてもTシャツでのそれとスーツででは心持ちはがらりと変わってくるはずです」
吉川さんは“いまは違う”といったけれど、じつはスーツに袖を通すようになってゆうに四半世紀が経つ。
「むかしはスーツを寝巻きにしているってからかわれたものです。というのも、どんなときもスーツを着ていたからです。スタジオに入るときだってスーツにネクタイでのぞみました。服に着られているっていうじゃない。そんな風に思われたらいやだから、肌に馴染ませようと思った」
若くしてスーツを我がものとしようとした吉川さんは誂えにも足を踏み入れる。これまでにつくってきたスーツの数を聞いて驚いた。なんと、何百着にのぼるという。もちろん衣裳をもカウントしての数だと思うが、それにしたって、ちょっと足を踏み入れた、どころの話ではない。
「スーツは誂えてなんぼ。スーツは服に体を合わせるんじゃなくて、体に服を合わせるものだと思っているから。そう教えてくれた人がいて、その教えを守ってきただけです」

▲ステージ・アクションを思わせる動きにもしなやかについてくる。
アルマーニは憧れのブランドだった
「アルマーニを意識するようになったのは水球選手だったころのことでした。U-20に選ばれてイタリアにいったことがあるんですが、アルマーニはライバルのイタリア選手を起用したカタログをつくっていました。日本の代表選手とは体格が比べ物にならない、奴らはみんながみんな前田日明(笑)。選手としてはもちろん、アルマーニのスーツを着た姿にも打ちのめされました」
それから数十年が経ったいま、吉川さんのワードローブには少なくない数のジョルジオ アルマーニが並ぶ。そうしてこんかい、念願のオーダースーツが仲間入りを果たした。その感想は、感動のひと言、という。
「フィッターさんの採寸からして惚れ惚れとしました。手のさばき、指の運び。一流の人はやっぱり所作が美しいんですね。そして仕上がったスーツは採寸で急カーブを描いて上がっていった期待値を軽く超えるものだった。なによりも感服させられたのはショルダーライン。富士山の裾野のように美しかった。やっぱり本物は違う。シルエット、生地、職人技。アルマーニのオーダースーツはそのすべてで高得点を叩き出していると思う」
そのスーツは着るときに緊張を強いる、とも。
「もちろんほかのスーツに比べれば驚くほどに動きやすい。緊張を強いられるというのはそういうフィジカルな部分ではなく、メンタルにおいてです。スーツには美しくみせる姿勢、というものがあると思う。完全無比なシルエットを描くアルマーニのスーツが、あらためてこのことに気づかせてくれたんです」
体幹を鍛え抜いた吉川さんの体にそのスーツは寸分の狂いもなくフィットしていた。そう感想を述べると、吉川さんはこういって笑った。
「いや自分なんかまだまだ。弓をやっているといったけれど、所作も技術も70、80(歳)の諸先輩がたにちっとも敵わない。やっぱり体幹がしっかりしているんでしょうね。スーツを着た姿も先輩のほうがさまになるはずです」
吉川さんは親戚や近所のお兄さんのように気さくで、ときにユーモアがこぼれ落ち、そしてまぎれもない威厳がある。ジョルジオ アルマーニのオーダースーツはそんなフクザツな男によく似合っていた。

オーダーのラインナップにニットとベルトが追加
この春、ジョルジオ アルマーニはオーダーのラインナップにあらたなアイテムをふたつ、加えている。ひとつはニット。デザインはクルーネック、Vネック、タートルネック、ポロシャツなど6種、素材はカシミアシルクなど5種(カラーは7〜8色)。身幅や袖丈、着丈などおよそ10箇所にわたって採寸し、オーダーシートは即日ミラノに送信される。納期は1〜1.5ヵ月。¥151,800〜。もうひとつはベルト。見どころはオーダーしたその場で持ち帰れる即納態勢と、5万円台からというエントリープライス。オーダー初心者にもトライしやすいアイテムだ。バックルはGA LOGOとクラシックスクエアベルトの2種(仕上げはライトゴールドやマットローズゴールド、シャイニールテニウムなど7種)、帯革はスエード、グレインレザー、アリゲーターの3種(カラーはキャメル、ベージュ、ブラックなど8色)。サイズは44〜68。¥52,800〜
吉川晃司(きっかわ・こうじ)
映画『すかんぴんウォーク』(1984年公開)、ならびにその主題歌である『モニカ』でデビュー。『LA VIE EN ROSE』『You Gotta Chance』など立て続けにヒットを飛ばし、1988年には布袋寅泰とCOMPLEXを結成した。最近は俳優としての活躍も目覚ましい。主な出演作に映画『レディ・ジョーカー』、ドラマ『天地人』、『下町ロケット』。映画『必死剣・鳥刺し』では第34回日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞した。